席をお譲りします!
「どうぞ、お座りください」
眼前で、妙齢の女性が声をかけてくれた。
図書館から帰路の電車の中でのこと。私は吊り革を手に立っていた。
「すぐ次の駅で降りますのでー 」
笑みをうかべて、その女性は言葉をつないでくれた。が、しかし...
「私も次の駅で降りますので」
咄嗟に口にでてしまい、立ったままで過す。なんだか気まずい空気が漂い続ける。
「余計なことを言ってしまった! 」
後で気がついた私には、次の駅が遠かったこと。
逆のことがあった。銀座チェロ教室の帰り、地下鉄で。
時間帯もあり、日頃大概は座れる。
ある日、座って数駅を通過すると、五歳以上は年上らしき年配の男性が、眼の前に立った。
すぐに私は席を譲ろうと腰をあげた。
「セイム、セイム! 」
歯切れよい口ぶりで手を振るしぐさで辞退、男性はそのまま立ち続けた。しばらく私は、照れ隠しに本を読み続ける振りをしていた。
最近増えてきた風景の断片素描である。若さへの未練が、歳相応に振舞うのを妨げる。
思い起せば、数年前。車中で吊り革を手にして立った瞬間、眼下の若い男性が、すっと立って席を譲ってくれた。「いえ、結構です」 咄嗟に私は遠慮した。と言うより抵抗したのが本音だろう。男性が立ち去った席に、しぶしぶ座った。恥ずかしさと初体験の衝撃が混じりあって、お尻がむず痒い心地だった記憶がある。
「老人を労わらねば」の敬老精神、「自分はまだまだ若いぞ」と気を張る気持。他人を慮る気持と自分を見つめる気持が、心の中で交錯する。客観的な風貌と、気持では若いぞとの主観、その折り合いが中々つかない。
「酒が弱くなった! 」「もの忘れがひどくなった! 」
しばしば愚痴が口について出る。嘆いているようで、本心は老化に抵抗している。
そんな愚痴が出る限り、電車の席の譲り合いも、まだしばらく続きそうである。
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コメント
西林です。
4月末にタイから帰国しました。
5月から藤田様が顧問をされている淡路マテリア社に勤務しています。
2002年の2月にベトナムに赴任し、タイを含め通算9年間日本を離れていましたのでとても「悠々自適」というわけにはいきませんが
できるだけ早く普通の日本人に戻り、藤田様のブログの仲間に加えていただければ幸いです。
投稿: 西林 俊治 | 2011年5月16日 (月) 16時25分