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有難きかな図書館

 一週間に一日、近所の図書館に通う。蔵書数が一万冊程の小ぶりな図書館である。頻繁に通うに至ったには理由がある。三階にある自習室のお陰だ。
本来図書館の書籍閲覧用だが、大学生や中学高校の生徒、主婦や年輩者など皆熱心に本を読み論文を書き、物静かに勉強している。私は幾度となく利用するうちに、すっかりこの部屋の雰囲気に慣れ、仲間に加えてもらった気がする。
約束事でもあり、先ずはこの図書館の本を閲覧する。面白そうだなと思うと、その本を借りる。手紙やブログの原稿を推敲するときにも利用する。
部屋には広辞苑、大辞林などの大辞典が多数置かれ、百科事典も数種類ある。誤字が多く、浅薄な知識しかない私には、大いに力不足を補ってくれ大変有難い。気がつくとこの図書館は、私にはすっかり『第二の書斎』である。そして今、この原稿もここで書いている。

 図書館利用は妻と娘のアイデアだった。特に自習室の利用は、娘が高校大学生時代に頻繁に利用したので、熱心に奨めてくれた。だが、当初私は余り気が進まなかった。現役時代の名残で、まだ経済経営や国際情勢の本に目が向きがちで、その方面の新しい本が少ないこの図書館には、余り足が向かなかった。更に自習室など、
「何だ?あのおっさん」
といぶかしげに見られそうな気がして、入りづらかったのである。
では何故遠慮なく通いつめるようになったのか。それは次のことがきっかけである。
 ある時、面白いテレビ番組をみた。番組の紹介は、『矢祭もったいない図書館』である。福島県矢祭町の町立図書館で、すべて町民の手作りだ。蔵書は全国の寄贈により、一年間で三万五千人、四十四万冊に達する。建物は武道館を改造し、図書館の設立運営はすべて町民のボランテイア。通常なら十億円のところ一億円で建設。因みに矢祭町は、福島県中通りの最南端に位置する人口六千五百人余りの町。政府主導の『平成の大合併』は小規模町村ばかりが切り捨てられると反対、「合併しない宣言」をして話題になった。行政町民が一体の自立財政確立の為の地道な取り組みは、全国でも注目の的である。
番組は伝える。子供たちは学校が終わると図書館で読書に励み、大きな夢を膨らます。
「若い頃は働く事で精一杯だった」
と、老眼鏡を新調して図書館に通う高齢者の姿。
まさに「村に不学の戸なく、家に不学の人なからしめん」風景である。
恐らく町民は教育重視のアピールは元より、地域おこしのシンボルとして幅広く活用し、町民同志のみならず全国他の地域との交流にも大いに役立てているに違いない。
町の人々の上から与えられたものではない<自分たちでつくる自分たちの図書館>への限りない愛着と誇り、さればこそわが子のように慈しみ育てていこうとの慈愛に満ちた思い。それが私の心にズシーンと伝わってきたのだ。
「そうだ!足元のわが町の図書館も、じっくりと見学しなおしてみよう、オラが町の図書館ではないか」
この報道に共鳴し触発された私は、近所の図書館を思い起こし、珍しくすぐに重い腰を上げる。観察すると、二階が図書館の中心書籍コーナー。一階と地階には、会議室、和室、音楽室等があり、地域の交流会や勉強会など多目的に利用されている。注目の三階の自習室だが、何も恐れるように若い人達ばかりが占めている訳ではなさそうだ。生徒学生、主婦や現役サラリーマン風の人、引退し趣味三昧らしき人、実に利用者は多彩。思わず食わず嫌いの自分を、決まり悪いが反省する。そもそもあのカール・マルクスは、大英博物館図書館に通いつめて資本論を完成したのだと、途端に強気にもなる。それからの私は、マルクスにあやかる訳でもないが、冒頭のような状況に相成る。

 最近の私は、「我が愛用の第二書斎も、もっと幅広く利用したい」と思い巡らせる日々である。木曜日はチェロ教室、金曜日は大学聴講生、図書館は一応水曜日である。こうして毎週のスケジュールは定まり、生活のリズムが芽生えてきた。頻繁な外出は妻も大歓迎だ。そしてリズムに乗ってルンルン気分のこれから先は?
先ず第一に、肝心な本の借り入れだ。検索し予約すれば世田谷全地区の本も借りられる。蔵書数百五十万冊だ。足元の図書館には著名作家の全集はほぼ網羅されている。どんどん借りない手はない。
図書館の帰りは周辺の町を彷徨し、そぞろ町歩きを楽しんでみるか。足を延ばせば、緑深き清涼感漂う九品仏、その先は快活でチャーミングな町〈何か女性を現す表現とダブります〉自由が丘が待っている。
いつもよく自習室で見かける、熱心にご勉強のあのご年輩の人。目が合うと軽く会釈する位だが、一度声をかけてみるか。
「ご熱心ですねー。ご関心の対象は何ですか?」
と。もし関心が重なるようなら、一階の会議室を利用し読書会か勉強会でも誘ってみようかな、お互い気の合う友人を誘って。
こうして私のささやかな夢は、近所の図書館のお陰で限りなく広がっていく。

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