ふがいなく、失敗し続ける日々、されど...
「えっ!またか」、朝、向き合ったパソコンがなかなか稼動してくれない。画面は、「ログオフしています」と表示している。「畜生!困ったなあ」何とか稼動させようと必死になって、手を変え品を変え試みてみる。しかし画面は冷たく無表情に、「ログオフ」の表示のままだ。思わずパソコンをひっぱたきそうになる。が、「ぐっ!」と我慢して思い止まる。
一端電源を切ろうかとも思ったが、まず気持を落ち着かせ、ひと呼吸置いてから再挑戦しようとした私は、「冷静に冷静に」と独り言を呟きながら、一階のリビングルームへ下りる。
既に朝食は済んだし、新聞も読み終わった。本でも読むかと、読みかけの伊藤整の本を開く。が、気が散ってしまいどうしても集中できない。やはり、頑として一向に動かないパソコンが気になって仕方がない。そうだ、今日は日曜日、よかったぞ、娘が休みだ。日頃の残業続きで疲れてぐっすり眠っている娘も、そろそろ起きてくる頃だ。私はしばらく我慢し、救世主の起床を待つことにした。
この後の展開は、私には神の手を持つとしか思えない娘のお陰で、無事パソコンは元通り稼動を開始する。一通りチェックし、次のブログの発信へ準備もできた後の気持は、やれやれやっと落ち着く。そして改めて思う。「何て俺はメカに弱いんだろう」 会社現役時代に、周りのスタッフにすぐ何でも助けてもらいすぎたなと、一応は悔いて反省しかかる。だが、その後最近妻に教えてもらったデジカメで撮った写真の挿入が珍しく上手くいったことに気をよくした私は、いつしかすっかり元の不器用な自分に戻っている。
「何か忘れ物をしたような気分だな、そういえば最近歯医者に行ってないなあ」 では念のためと、手帳を確認する。何と歯医者の予約は昨日だった。「しまった!」 あわててすぐに歯科医院に電話し、次の日の予約を無理やり強引に押し込んだ。
「すっかり忘れてしまって」と言い訳するのも何だか極まりが悪いなと、すぐ素直になれない。「すみません、急用が出来てしまって」とその場はとりつくろった。しかし自分の不注意でキャンセルしてしまい、翌日に気がついて急用を理由にするのもどう考えてもおかしいなと自分でも苦笑いする。そして「ああ-、これで二回目のドタキャンか」 私は忘れっぽくなってしまった自分に、「ふうっ-」とため息をつき、内心あきれてしまう。
医者に奨められ思い切って決心し、インプラント治療に踏み切ったのだ、日々の治療の大切さを十分認識しているはずなのに。現役時代は、きちんと忘れずに手帳でスケジュール管理していたのになあと、かっての毎朝手帳を見る習慣を振り返る。
すると、「あとで後悔しても遅い。物忘れの多い自分を自覚しなくちゃあー」
頭の中にはのっそりと現役時代の私が登場し、ふがいない今の私をきつく叱責する。でもしばらくするうちに、「最近の進んだ治療技術のお陰で、治療後の歯も痛くなくなった。お陰でつい忘れてしまいやすいんだ」と、知らぬ間に言い訳しながら自分で納得しかかっている。
あるグループの懇親会があり、久しぶりに四谷へ行った。おいしい地酒やワインがふるまわれた。すすめられるままに心おきなく痛飲した。
さて問題はこれからである。帰りは最寄の地下鉄四谷三丁目で乗車した。知らぬ間に居眠りしてしまった私は、突然目覚め電車が田園都市線の青葉台駅を過ぎようとするのに気がついた。しばらく前に乗換駅の二子玉川は通り過ぎてしまっている。「しまった!乗り過ごした」 あわてて次の駅で下車し、ホームを換え渋谷方面行きの電車に乗る。電車はすいており、すぐにゆっくりと座る。そして予定通り?うとうとと眠りに着いた私は、気がつくと三軒茶屋である。とっくに二子玉川駅を通りすぎている。何故か自分にあきれることもなく、再びひたすらホームの階段を上り下りして反対側の電車に乗り換える。
今度は家路に着く大勢の客で電車は込み合っており、仕方なくつり革に両手でつかまって立ち通す。眠れなかったせいか、無事二子玉川駅で大井町線に乗り換えることができた。この駅が始発のために空いている席に、安心してゆったりと座る。「読んでいただいている皆さん、ご期待に違わず私はこの晩三度目の乗り過ごしをしてしまいました」 気がつくと降りるはずの等々力駅はとうに通過し、もう終点の大井町駅に近い。
こうなるとすっかり乗り過ごしには慣れてしまった気分だ。いったいいつたどり着けるか、何かゲームを楽しんでいるような気分にもなってきた。「まあ車庫まで運ばれたわけでもなし」と、自分で自分を慰めている。そしてようやく等々力駅にたどり着き、「よしよしご苦労さん」とこっそりと自分に声をかけ下車する。
自宅に着くと十二時前、行ったり来たりの長の道中のおかげで、もうお酒の酔いは醒めてしまった。四谷三丁目に乗った時間は?すっかり忘れてしまった過去の記憶だが、どう考えても九時半頃だ。地下鉄を田園都市線にどこでどうして乗り換えたのか全く覚えていない。さて帰宅してからが大変、飲むとすぐに眠たくなる最近の自分の傾向と不注意を妻からは厳しく指摘され、決まり悪いがしぶしぶうなずく。
仕事の第一線から退いて一年近く、以上は最近のふがいない私や失敗談の続くある一週間の記録である。
自慢ではないが、失敗の経験は若い頃からたんとあり、還暦過ぎてからの専売特許でもない。しかしふがいなく、失敗の目立つ最近の自分を考えると、少し反省が必要だなとひとまずは思う。今後の加齢を考慮すれば、ふがいなさ係数は高まる危険性が強く、失敗頻度係数も潜在的には着実に上昇するだろう。いつまでもふがいなさ係数の高まりを放置しておくわけにもいくまい。失敗続きも慣れっこで平気さ、と居直るのも如何なものか。そう反省しながら気分を引き締めかかった私は、夜遅く電車に乗る時は、つり革につかまってでも立っていようと一応の対策を考えてはみる。友人たちとの折に触れての飲み会は貴重な交流の場でもあり、お互い啓発しあい適度な刺激にもなる。何よりも気のおけない仲間と痛飲するお酒は格別だしなあ。しかしお酒はかなり弱くなってしまったことは認めざるをえないか。まあ悔しいが、そこは我慢して量を抑制せざるをえないか。
パソコンでも何でも苦手なメカは、失敗を恐れずに自分でとことん操作してみよう、それもよい心がけだ。何をするにもあまり他人に頼らずに、自分の力でやり遂げんとする強い意志を持つことが必要だな、そうそう、ますますいい考えだぞ。そう段々と反省を深めて、今後の対策などに智恵を巡らせ始めてはみたのだが...
「まあまあまあ...あんまり力んでも、返ってストレスが溜まるばかりだぞ」ともう片方の自分が、呟くような小声で囁きかけてくる。「まだ先は長い。もっと人生、心に余裕を持って楽しまなくちゃー」
「日々是好日」 ふがいない最近の私を告白し、失敗の数々を恥じらいもなくこうして綴っていくと、いつの間にか我ながら、「くふっ!」と笑いがこみ上げてきて、いつかまたこのようなことを書き綴れる機会がくればいいなと、ほのかな期待が芽生えてくる。
すると世に言う老後の暮らしの不安とやらからも、少しばかり解放されそうな気分にもなりかかり、「日々是好日」の言葉がすーっと頭に浮かんできて、ふがいなく、失敗し続ける日々の暮らしも、まんざら悪くもないなあと思われてくる。
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